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ナイン・インチ・ネイルズのChris Vrennaが明かす伝説の『Quake』サウンドトラックの裏側

  • 2022 Sept 16
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  • 作成者:id Software

まずは、ゲームのパイオニアとしての『Quake』について簡単に紹介しましょう。本作はid Softwareが1996年に発売したFPSであり、リアルタイムの3Dレンダリングや、今では当たり前となったキャプチャー・ザ・フラッグなどのモードが充実したオンラインマルチプレイヤーという革新的な技術が盛り込まれ、その陰鬱なゴシックホラーテイストでゲーマーに衝撃を与えた作品です。そして、『Quake』の雰囲気について語るということは、本作が今なお語り継がれる大きな理由であるサウンドトラックについて語ることでもあります。

ナイン・インチ・ネイルズのTrent ReznorとChris Vrennaが制作した『Quake』のサウンドトラックは、ダークな雰囲気のインダストリアル系でありつつ、驚くほど繊細な仕上がりです。これは『Quake』のトーンを決定付けただけでなく、当時のプログラムされたMIDIや8ビット音楽とは一線を画した、スタジオアルバムのように構成されたCDレベルのサウンドトラックの時代をもたらす先駆けとなりました。

今回はなんとSan Francisco Bay Area ConcertsのKevin Keatingが、Chris Vrennaとのインタビューを企画してくれました。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。本記事では、ビデオサウンドトラックの歴史を変えたゲームサウンドトラックがどのように誕生したのかをご紹介します。

SC Vrenna drums1 in-body

Kevin Keating(以下、KK)ナイン・インチ・ネイルズがid Softwareと共に『Quake』のオリジナルサウンドトラックを制作することになったきっかけは?

Chris Vrenna(以下、CV):始まりは1993年までさかのぼります。ロサンゼルスに引っ越したTrentと私は、あの有名なSharon Tateの元自宅に住んでいて、『Broken』と『Fixed』のレコードを完成させ、『The Downward Spiral』の制作に取り掛かっていました。あの頃のTrentは、超が付くほどのゲーマーでした。お互いにFPSゲームに熱中しました。どの作品も、今でいうFPSの“始祖”のようなものです。

とにかく、Sharon Tate宅で『The Downward Spiral』を制作していた頃、『Wolfenstein 3D:Spear of Destiny』が発売されたんです。2人とも1ヵ月くらい大ハマりして、毎朝起きてコーヒーを飲んだらすぐゲームを進めていました!Trentは好き勝手に進んで、私は「違う違う。廊下を進んで右側だったんだって」と指示していましたね。

ようやく『The Downward Spiral』が完成した後で、私たちはツアーに出発しました。Trentは当時PCを2台持っていて、確か『Intel486』だったと思いますが、1台をツアーバスの前のスペースに、もう1台を後ろのスペースに置いて、ツアーバスの前から一番奥までケーブルを引いて、その2台同士でデスマッチで遊べるようにしたんですよ。そして、Trentがこのことをインタビューで語ると、その大ファンぶりがid Softwareの方々の目に留まったらしいんです。Trentと私はダラスまで飛んで、id Softwareの皆さんと会いました。全員で夕食を食べに行ったのですが、まさにオタクグループでしたね。有名で大金持ちなところが変わっていましたが。とにかく、そこで『Quake』という開発中の新作のために曲を作ってみないかと言われたんです…

そしてゲームが発売され、武器にネイルガンが加わりました。その弾薬パックを拾うと、弾薬の入った木枠に「NIN」のロゴが入っていて、そうやってナイン・インチ・ネイルズの存在をアピールしてくれたんです。2つのグループがお互いの仕事に敬意を払って、大切にしていました。短いながらも、あのコラボレーションは本当に特別で素晴らしいものだったと思います。なので結局きっかけは何かと聞かれれば、ファンが2人いたということでしょうね。

SC Vrenna studio in-body

KK『Quake』のサウンドトラックとグループとして発表する曲では、作曲活動に違いはありましたか?

CV:ゲーム音楽はさまざまな面で難しさがありました。普通の曲とは違い、Aメロ、サビ、Aメロのような流れはないからです。また、歌詞がない完全なインスト曲でもあります。当時の私たちにとっては初めての経験でした。

ゲーム音楽についてもう一つ気を付けることは、サウンドエフェクトはゲームの状況を掴むためにとても重要なので、プレイしている間はそれが聞こえなければなりません。ゲームをプレイするために必要な他の音との兼ね合いや、すぐに死なないようにするための音楽のあり方など、多くのことを学びました。これが私たちのゲーム音楽活動のパート1です。

他に考える部分として、ゲーム音楽のほとんどはループするということがあります。今でこそほとんどの曲は24ビットのWAVファイルで非常に高音質ですが、90年代当時はRAMは貴重でした。作曲に取り掛かった頃、それまでのナイン・インチ・ネイルズの曲はどれも厳しい制約のある音源チップのみで作られるチップチューンだったので、すんなりとは行かない気がしました(実際はどうだったのか分かりませんが、そういうことにしておきましょう)。何をしようかと考えて、ドローンサウンドを1秒にしてみても、上手くいきませんでした。そして妥協した結果、(id Softwareの方で)曲をディスクに入れることはできても、ディスクからストリーミングする必要がありました。つまり、曲をメモリに読み込ませることはできませんでした。ですが、Trentは「そっちが何をするにしても気にしないので大丈夫」というスタンスだったので、曲はCDに入れて、曲を聴くためにはディスクをトレーに入れておく必要があるようになりました。「音楽の限界に関しては、それまでのやり方にこだわっていたら、ナイン・インチ・ネイルズらしいことはできない」とTrentが言っていたのを覚えています。出来上がったサウンドトラックは、このゲームをプレイしながら流すためだけに作られたナイン・インチ・ネイルズのインストBGMアルバムのようなもので、画期的でしたね。

もう一つ難しかったのは、『Quake』の雰囲気を形作るアート的なテーマを生み出すことでした。ですが、ドローンやサウンドデザイン的なもの、本物のディストーションサウンドなどを試しながら、全ての音をバラバラにして、自分たちが作りたいフィーリングやムードを作り出す作業となって楽しかったですね。

KKそのサウンドトラックが当時のゲーム音楽の常識を覆すような全く新しいオリジナル楽曲という意識はあったのでしょうか。

CV:全くありませんでしたね。私たちはただ『Quake』が最高のゲームで、id Softwareが大好きだったから制作しただけなんです!『Wolfenstein』や『DOOM』の開発者と仲良くなれるチャンスが転がってきた、ただそれだけでしたね!

SC Vrenna drums2 in-body

KK制作したサウンドについて何か面白いエピソードはありますか?

CV:ギターのドローンでしょうか。ギターをペダルやさまざまな種類のエフェクトにかけたり、オーディオ入力端子のあるミニモーグなどのシンセサイザーにかけるんです。多くのシンセサイザーには、アナログシンセのフィルター部分を通して外部音を処理する入力があるので、奇妙なドローンの多くはそれを使って録音しました。

エフェクトを多用するのはナイン・インチ・ネイルズの持ち味で、手に入る面白くて複雑怪奇なエフェクトはどんどん使います。このとき使った『Zoom 9050』は、当時の『The Downward Spiral』のギターサウンドに使った秘密兵器で、思いっきり加工されたデジタル音が生まれました。Trentは、「真空管アンプとMarshallのスタックが必要だ」みたいに凝ったことはせず、「真空管アンプなんてどうでもいい」という感じで、ペダルやボードまでサッと歩いていって「完璧だ」というノリでした。

他にも、変なサンプリングをしてそれをめちゃくちゃにすることも何度もやりました。ある年のマルディグラのとき、Trentは私に携帯型のデジタルオーディオテープレコーダーとステレオのハンドヘルドマイクを渡して、「とにかく一日中音を拾ってこい」と言ってきました。映画やゲームのサウンドデザイナーのように、奇抜な音を何もかも拾って、それをサンプラーに取り込んで、実際に音階になるようにチューニングして、メロディとして演奏できるようにしたんです。こうしたサウンドの多くは、ベースギターやピアノなどに合わせて演奏するために、ハンドサンプリングしたサウンドをキーボード全体にスケールを合わせてマッピングしたものです。

当時のナイン・インチ・ネイルズのレコードは全てそうやって作られたもので、『Quake』にはピッタリでした。あの『Quake』のサウンドはカッコよさも恐怖感もずば抜けています。今聴いても時代遅れとは全く思いません。無暗に音を鳴らしているわけでもなく、過剰に何かを重ねているわけでもありません。音が適切なタイミングで入ってきて、積み重なり、波及し、絶妙なバランスを保っているんです。「時代遅れでない」と思う理由の一つはそれだと思います。過剰にしていないことで、陳腐さのようなものが消えているわけですね。

KK『The Hall of Souls』の囁き声について教えてもらえますか?

CV:もちろんです!その話の顛末を耳にしたのはずっと前です。あれは確かに私たちが入れたもので、ずっと苦悶の声を曲に入れたいと考えていたんです。ご存じの通り、タイトルテーマからのメインリフがあり、最後の最後で叫び声が聞こえます。よく聞くと分かりますが、あれはTrentの声です。

あの声には工夫がしてあって、全て自分でやってしまうと、同じ音色や声が重なるだけなので、取っ散らかってしまうんです。なので、マイクの片側に1人、もう片側に他の2人を配置して、そのボーカルの一部を取り出して、オーディオファイル全体を反転させました。今まですっかり忘れていましたね。インタビューされてやっと思い出せました!

KK『Quake』が新版としてリリースされて、新しい世代のゲーマーに届いたことをどう思いますか?

CV:ある意味懐かしくもありますが、技術的な面やストーリー的な面も全て含めて、25年の間にゲームがどのように進化してきたのかも見られて感動しています。こうした昔懐かしいゲームを振り返って、あの感動をもう一度味わえるのは凄いことです。そして、新しい人たちが(『Quake』を)プレイして、オリジナルのナイン・インチ・ネイルズの曲でゲームが完成することは素晴らしいと思いますね!

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